東坡易伝

18:山風蠱

蠱:長く澱んでいたところに虫が涌いている
(蠱はここでは代々家で飼っている霊的な毒虫ということで読んでます)

初六:父の残した蠱を殺す。父の意を害したようで、実はいいことをしている。

温柔謹重な子「この蠱は昔、家を作るときに父が痩せた土地でも生きていけるようにとの願いを込めて作ったものですが、私の頃になると牲をやたらと喰いたがり、しかも家にとって却って負担になり始めました……。父が亡くなった今、ここで殺してしまいたいのですが、これは父の意を損なったようでいて、それでもむしろこの家のためになるはず……。」(この蠱殺しは多少危ないけど上手くいく)

 初爻は陰なので大人しいので父の意を気にしつつ(陰爻)、それでも陽の位にあるので敢然と挑まなくてはならない(陽位)。

九二:陰性のねちっこい毒虫(蠱)を始末する。正面から攻めるのは危ない。

(蠱は屋根裏で梁に絡みついている)
蠱「代々わたしがこの家の為に、他家より財も攫ってきてあげたのに、私を煮て殺そうなんて、恩知らずもなかなかじゃないのかい?そもそも、私が取ってきた財であなたは育ったというのだから、私こそあなたの親みたいなものじゃないか」

 二爻は陰なので、表立っては暴れないけど始末するのは難しい毒虫(蠱)です。
 その毒虫には母のような恩もあるので、真正面から斬ろうとすると危ないが、蠱を飼いつづけている弊害も大きくなってきたので、表立っては穏やかに(陰位)、内には果断に(陽爻)すすめねばならない……

九三:やや荒っぽく蠱を殺すので、ちょっと危ない。

荒武者「こうなったら真正面から斬り合いでもして仕留めてやる。そもそも、私は刀の扱いにかけては自信があるのだから、相手が人でも蠱でも必ずや斬り伏せてみせよう。うちの蠱もなかなか荒っぽい気性をしているから、こそこそ変な策を用いるよりその方が話も早いだろう。」

 三爻は陽で、さらに陽の位にいます。二爻のときは内に剛胆なものを蔵しながら、外は穏やかにみせている……という姿でしたが、ここでは剛胆さを隠さずに正面から押し出して、そのまま押し切ろう、という陽剛のやり方で蠱を倒します。危なっかしさもありますが、爻と位が合っているので、なんとか上手くいきます。

六四:蠱を殺し切れずに太らせる。

蠱「ふふっ、もしかして私を殺そうとでもしてたのかい?残念だね、あなたの力及ばずというところだけど、まぁこの家は気に入っているから、もし頼まれれば居てあげてもいい。そうだね、私を殺そうとして縛りを破ったから、いままでよりも供え物や贄を増やそうか。贄となる者の名を教えてくれれば食うのは私がやるよ。供え物はあなたたちに出してもらうけど」

 四爻は陰なので穏やかなやり方を好みます。さらに陰の位なので静かに蠱を仕留めようとしますが、怯えすぎて上手く殺し切れないです。故にかえって蠱を肥え太らせるor本人が食べられたりしそうです。

六五:父の霊を祀りながら、父の残した蠱を殺そうとする

優柔爾雅な子「この蠱は家にとって弊害のほうが大きくなっているので始末せねばならないのですが、父の意を傷つけたくないので、その霊をまず祀りましょう(こうしておけば、私の名も汚れないで済みます……)。さらに父の霊から援けも得ることができるはずで、蠱もいまほど暴れなくなっていくのではないでしょうか……」

 五爻は陰なので穏やかに片付けたがり、さらに中に居るので偏激なやり方は好まないので、みずからの名も傷つけず、父の霊にも申し訳を立てて、しかも蠱を殺す……というのは兼ねるのがかなり難しいです。でも、みずからの名は傷つかず、父の想いも損なわず、家もすぐには廃れないです。

上九:大きく育ちすぎた毒虫は手が出せない

隠棲していく子「私の家では代々妖しい神を祀ってきました。昔はその効験も嬉しく思っていたものの、しばらくすると供える物が次第に増えていくのがかえって家の負担になり、一度祭りはじめたらずっと続けなくてはいけないのですが、下手に近づけば餌になるだけです……。あれを斬って名を揚げたいなんて娑婆っ気は捨てて、もはや家を離れて逃げるしかないのです……」

 蠱の上爻は陽なので、一人でみずからの身を堅く守ること、さらに蠱の終わり(上爻)に至って毒虫は育ちすぎていて、私の代で斬ることもできないので、もはや世事から手を引くべき……。

妖蠱の神

 長年の旧弊を片付けたいと思っている人たちのさまざまな様子が「蠱」です。「蠱」は蠱壊、蠱蝕などの内側から蟲が喰っていく様子なので、家に溜まった旧弊宿痾をなんとか切り落とそうとする人たちが色々なやり方をしているのが各爻です。(蘇軾の『東坡易伝』による読み方。ちなみに原文はこちら

 どうでもいいけど、蠱については有名な話が『捜神記』巻十二に載っているので、イメージしやすいように訳してみます(この話、『遠野物語』みたいで好きなんですよね笑。蠱って、おしら様に似ている怖さもあるような……)。

 滎陽郡にある家があって、姓は廖といった。代々蠱(他家より財を奪ってきてくれる霊的な毒虫)を養っており、それによって財をなしていた。のちに新しく妻を娶り、このことを妻に隠したままにしていた。あるとき家の者はみな出かけて、この妻だけが留守番をしていたが、ふと家の中に大きい甕があり、これを開けてみると大きい蛇が中にいた。妻は熱湯を作ってその蛇にかけて殺してしまい、家の者が帰ってくると、その事を話した。家の者たちは驚き悲しみ、それから何日もせず、その家の者はことごとく病に罹り、そのほとんどが死んでしまった。

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています