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太古の言葉

 最近、八卦の記事を書いて、個人的に思いついたことがあるので、雑感的な記事をひとつ……。

 まず、占いと文学って似ているようで折衷させるのがかなり難しいというか、結構違うものな気がするのですが、たとえば占いって、易だと語彙が八つ(八卦)しかない中でさまざまなものを書く、みたいな面があります(これが西洋占星術だったら、10天体・12星座・12ハウスだけで様々な状態を描く、というふうになります)

 八卦は「伏羲がつくった最初の文字」みたいに云われるけど、八つしかない文字で世界のすべてを書くとなると、それぞれの文字はけっこう包括的というか緩い核心の質感になりそうです。

 ちょっとどういう話かわかりづらいと思うので具体例を出してみると、

震は激しく動くもの、巽はふにゃふにゃと周りにあわせて形を変えるもの
坎は不穏なほど拗れて窪んでいるもの、離はひらひらと鮮やかなもの……

みたいな感じで、八つの卦それぞれに本根的な質感があって、それから派生して

震は激しく動く雷、気性の荒い馬、勢いよく伸びる竹……
離はひらひらと華やかな文章、ちらちら明るい庭燎(にわび)、あでやかな文様……

みたいになります。羲皇の世の人は、激しく動くもの、荒々しく迸(たばし)る雨などはみんな「震」と云っていて、ひらひらと明るく綺麗なものは、ちらちらと雪に凍えて冴えている花なども、みんな「離」と云ったり、がりがりと抉れた中に沈んでいる不気味な沼も、痩せて骨ばり弊れている木などもみんな「坎」と云っていたのかもです。

 なので、占いの言葉って、いい意味で寛放or簡遠な感じがするというか、いい意味で「未成熟な詩」(簡朴で疏拙というか“思う心の端ほどのみを云っている”みたいな詩)という雰囲気です。

 ちょっと話が逸れるけど、飛騨の白川郷にいったときに思ったのが、合掌造りの中にその頃の暮らしで使っていた道具を展示しているのですが、鋸・鉈・かご……などがすごい種類があります。

 そして、それぞれ二人で引く鋸、小枝を切る鋸、~~を入れる籠みたいなふうに、とても細分化されています(山の生活をしたことがないので、その使い分けが全然わからない側なのですが……)

 譬えとして合っているかわからないけど、中国の周代の官制を記した『周礼』でも

類:上帝を祭る
造:祖神を祭る
禬:災厄を除く祭り
禜:日月星辰・山川などを祭る
攻:陰(暗いもの)を鳴り物で攻め立てる祭り
説:陰(暗いもの)を祝詞で責める祭り
(春官・大祝より)

璧:円い玉で天を祭る
琮:四角い玉で地を祭る
圭:尖った玉で春を祭る
璋:半圭形の玉で、半ば陰気が出てきた夏を祭る
琥:虎の形の玉で物凄まじい秋を祭る
璜:半円の玉で、物が地中に引っ込んだ冬を祭る
(春官・大宗伯より)

祠:春の宗廟の祭り
禴:夏の宗廟の祭り。用いる酒器は祠と同じ
嘗:秋の宗廟の祭り
烝:冬の宗廟の祭り。用いる酒器は嘗と同じ
(春官・司尊彝より)

みたいになっていて、神を祭ることがこれほど豊かな世界をもっていて、敬虔きわまって幻怪、整粛きわまって妖嬌です。

 ところで、美しい文章とかって、ほとんど典型的な象徴を逸脱していることが多い気がするのですが、それで思い出すのが

「夫大塊噫気、其名為風。是唯無作、作則萬竅怒呺。而獨不聞之翏翏乎?山林之畏佳、大木百圍之竅穴、似鼻,似口,似耳,似枅,似圏,似臼,似洼者,似汚者、激者,謞者,叱者,吸者,叫者,譹者,宎者,咬者、前者唱于而随者唱喁。冷風則小和、飄風則大和、厲風済則衆竅為虚。而獨不見之調調、之刁刁乎?」
子游曰「地籟則衆竅是已、人籟則比竹是已。敢問天籟。」
子綦曰「夫吹萬不同、而使其自已也、咸其自取、怒者其誰邪。」

「さてあの大塊の噫気するとき、その名を風とする。これはただ起こるわけではないが、起これば則ち萬の竅(穴)が怒呺する。そんな中、この翏翏たるを聞かぬか?山林の畏佳(ざわざわ)と揺れて、大木の百抱えほどもあるものの穴、その鼻に似て、口に似て、耳に似て、枅(ます)に似て、圏(さかずき)に似て、臼に似て、洼(凹み)に似て、汚(沼)に似たものが、あるものは激しく、あるものは謞(切るように)、あるものは咆えるように、あるものは吸うように、あるものは叫ぶように、あるものは譹(泣く)ように、あるものは宎(ひそめる)ように、あるものは咬(悲しむ)ように鳴いて、前者がひゅううと歌えば随う者はごぉおと重ねる。さらさらとした風が小さく和すれば、疾い風が大きく和して、激しい風が通りすぎてしまえば萬竅はみな静かになる。そうして、この調調(ころころ)刁刁(からから)と鳴く木々は聞えるのだ」

子游「地の籟(音)は萬竅の音で、人の籟(音)は竹の笛や笙ですが、天の籟(音)とはどんなものでしょう。」
子綦「その風が吹いて鳴る音はさまざまで、それでいて自ずから勝手に鳴っている、そうしてみなみずから鳴らしていて、音を出しているものは何なのだろうか」

(『荘子』斉物論篇より)

の天籟問答なのですが、「大塊(大地)」が多くの形の穴をもっていて、その複雑さが「縵(のろのろ)としていたり、窖(どんより)としていたり、密(ぎちぎち)としてたり、小さい恐れはびくびく、大きい恐れはぞよぞよとさせてきたり」するような多彩さ、次々に叢生する菌蕈(きのこ)のような不気味な多彩さ、整理できない異様さなのかもです。

 易の八卦が「剛柔の相い摩して、八卦の相い蕩け合って(繋辞上伝)」って、まぁ能書き……みたいに思っていたけど、語彙が少ない古い世の言葉で、あちこちごつごつと欠けているところがあったり、ぐにゃぐにゃと変なつながりになっているところのある詩なのかもです。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています