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『易林』について

『周易』と『易林』および漢易

『周易』はいわゆる『易経』のことで、八卦(八つの自然現象を象徴化したもの)を上下に組み合わせた六十四卦(例えば上に天、下に雷などの組合せが、上も八通り、下も八通りなので合計で六十四通りになる)で占います。

 易では「陽になりそうな陰(二月の初めみたいな)」「陰になりそうな陽(夏の終わりの草みたいな)」があって、そのような「陽になりそうな陰」「陰になりそうな陽」がどのくらい含まれているか、その陰陽が変わるとどうなるかは書かれていないです。そこで、六十四通りの現象がさらに六十四通りの変化をするとどうなるのかを書いたのが焦贛『易林』です。

 焦贛(しょうこう:「贛」はかん・こうの二通りの読みがあるけど、焦貢とも書かれるのでこうと読む)は前漢後半ごろの人で、『周易』は不規則で古怪、『易林』は古艶俶儻(古めかしく艶やかで不思議)な四言詩という形式になっています。

 漢代易学の大家としては孟喜・焦贛・京房などが有名で、孟喜は易学に陰陽家や災変のことを取り入れた象数易(もとの『周易』は文辞と象徴の形を組み合わせて解釈していたのを、より象徴の形に重みを置いた易学)を作っていて、その改造を周りから謗られたりもしているのですが、この手法は漢代にとても流行してます。

 焦贛は梁国(漢代には諸侯国が幾つかあって、梁はその一つ)の睢陽(今の河南省商丘市)の貧しい家に生まれて、梁王から本や資用(お金)などを与えてもらって『易』を始めとして自ら満足するまで学ばせてもらい、一通り学び終えると梁国で小黄県の令(今の安徽省毫州市あたりの長官)になり、その地では盗賊が多くいたので、先に密偵を出して盗賊が現れそうなところを抑えて防いだりと県吏や民を養ったので、焦贛をさらに高い位に遷そうとした際に人々が引き留めていて、梁王は給金を増やして位をそのままに留めて、県令のままずっと過ごしていました。

 その後に出てきた京房は、焦贛に易を学んでいて、その説は災変のことを占うのに長じていたのですが、師の焦贛からは「私の道を得て身を亡ぼす者は、きっと京房だろう」と云われています。その通り京房は度々皇帝に災変神秘のことを奏上していて、その性格は詭詐を好んだため周りから疎まれて、最後は殺されているけど、現代の断易(五行易)で使われる納甲は京房式だったりと象数易(漢易)を大成もしてます。

 ちなみに漢代の易学について『漢書』巻八十八(梁丘賀伝)に

「焦贛の易学は孟喜から聞いたもので、京房の易学は焦贛から出ているとして、孟喜・焦贛を一つの系譜とした京房が、孟喜の他の弟子から否定される話がある。様々な易学家の説を比べてみると、焦贛独得の隠士の説を、孟喜の災変易学に無理やり引き入れているようにも思われる」

ということが書いてあり、孟喜は漢易流の災変と象数を混ぜた易学を始めた人、焦贛はおそらく象数易を知っていたけど自ら思い得た隠士的な説、京房は象数易をより洗練させた人というつながりです。(焦贛だけは『易林』を詩で書いていたりと漢易の中ではやや変わっているのかもしれないですが)

尚秉和『焦氏易林注』

 このサイトでは焦贛『易林』を読んでいくときに、清末~民国期の尚秉和(秉:へい)が作った『焦氏易林注』を使っていきます。尚秉和注の特徴としては「『易林』の文辞は漢易ふうの象数の組合せを詩歌化したもの」ということで、変化前と変化後の卦に含まれている象意を読み解いて、それが詩の中にどのように入っているかを見るという感じです。

(個人的な感覚になるのですが、幾つか尚秉和の注で読んでみて思うのは、確かに漢易的な象数の解釈も入ってそうだけど、意外と『周易』本来の卦の意味に回帰して、二つの卦の間で雰囲気がどのように動いているかの方が大事かもしれないので、こんなこと書くのも畏れ多いですが、解説のほうではその視点からの独自解釈を書きます……)

 あと、尚秉和の注釈では自身が作った「易林迭象原本考(易林で使われる失われた象意の原典についての考え)」に基づいている解釈もあって、そのような解釈が出てきたときはこのブログでは「迭象」と書いておきます(個人的に「易林迭象原本考」は『周易』で偶然使われた比喩だと思うけど。かなり矛盾している解釈も多いです……。日本語訳や全体の解説には「迭象」はあまり入れません)。

ちなみに、このブログでは『周易』の解釈は基本的に『周易注疏』で読んでいます(あまり真面目に読むほどの記事ではありませんけど)

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 今からすると、この記事で書いた易林の詩についての解釈は違う気がする。詳細はこちら。

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています