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2-35 坤之晋

本文

挒潔堁堁、締結難解。嫫母衒嫁、媒不得坐、自為身禍。

注釈

挒、捩也。潔、『說文』「麻一専也」。艮為手、言以手捩麻、締結難解也。堁堁、塵起貌。坤為醜、故曰嫫母、離為見、故曰衒。坎為合、為媒。坤為身、為禍、為自。(坤為地から火地晋へ)

挒は捩ること。潔、『說文解字』では「麻の一専(一本)なこと」。艮は手(説卦伝)、手で麻を捩って、締結(固く結ばれて)解けないことを云う。堁堁は、塵が起ちのぼる様子。

坤は醜い(出典不明)なので、嫫母(ぼぼ)。離は見せる(目から派生)なので、衒(みずから見せつける)。坎(晋の互体)は合(出典不明。暗い水の中での冥合?)、媒(合からの派生解釈で結婚?)。坤は身(陽は魂、地は魄)、禍(暗いもの)、自(陰・私はどちらも密かと読む)。

日本語訳

挒潔(捩り上げて)は堁堁(ごたごたとして)、締結(固く結ばれて)解けない。嫫母は衒嫁(みずから売り込んで)、媒しては座る隙もなく、自ら身の禍いを為す。

解説

挒潔・堁堁はどちらも擬態語。挒潔は麻紐が鬱屈した様、堁堁は塵の起ちおこる様というけど、ここではごたごたが積み重なるの意が近いです。『淮南子』説山訓に「泰山の容(すがた)は巍々然として高いが、之を去ること千里では堁埵(かた)としているのは見えず。」とあり、山が高く積み重なった様をいってます。

もっとも、塵が起こるも間違いではなくて、宋玉「風賦」に「それ庶人の風は、塕然(もやもや)として窮巷(狭い路地)の間に起こり、堀堁(くつか)として塵を揚げる」とあり、堁埵・堀堁・堁堁はすべて同じ擬態語で、ごたごた・ごちゃごちゃのことです。ここではあちこちでごちゃついている様子の比喩になってます。

晋は登り進むことで、地(多くの臣下)の上に特に引き立てられて離(太陽)のように顕らかなこと。嫫母は、ずんぐりとして黒い醜悪な神とされたが、内面を好まれて黄帝の次妃になっていて、晋のように売り込むより(衒:自ら誇る、炫耀すること)、周りから推されるのを待つほうがいい意だと思います。

余談

黄帝の次妃の嫫母は、のちに方相氏という疫鬼を追い祓う役職の由来とされていて、その方相氏の様子は

方相氏、掌蒙熊皮、黄金四目、玄衣朱裳、執戈揚盾、帥百隷而時儺、以索室敺疫。大喪、先匶、及墓、入壙、以戈撃四隅、驅方良。

方相氏は、熊の皮を蒙(被)り、黄金の面に四つの目、玄い衣に朱い裳で、戈を執って盾を揚げ、百隷(百官)を帥(率)いて時に儺(やら)い、室の中を索(捜)して疫を駆(追い祓)う。大喪(周王の喪)では、匶(柩)の先をいって、墓に及(着)くと壙(穴)に入り、戈で四隅を撃って、方良(木や石の霊)を追い祓う。(『周礼』夏官司馬下・方相氏)

とあります。ここで出てくる「方良」とは罔兩(魍魎)と同じ擬態語で、もやもやぼやぼやとした霊のようなもの。古代の帝王の系譜は

黄帝―昌意―顓頊―瘧鬼(長江の疫鬼)
         魍魎鬼(崑崙山の周りの弱水の疫鬼)
         小鬼(宮室にいて人を驚かす疫鬼)
嫫母―…   …―方相氏

のようになっていて、黄帝の妻から疫神を祓う方相氏の「方相」は「放想(想いが飛んでしまうほど)という意味で畏怖する様」とあるが、たぶん方良(罔兩)に同じく畏怖させてくるものという擬態語なので、どちらも魍魎同士の関係になります。

この方相氏の行事は「儺(な)」といって、春の終わり・秋の中頃・冬の終わりの三回行われて、追儺(ついな)・鬼儺(おにやらい)ともいいます。今でいう節分的な雰囲気なのですが、この儺という字は不思議な使われ方をしていて、『日本書紀』で飛騨の豪族 両面宿儺(顔が二つ、腕が四本の異形の神)に当てられたのが儺(方相氏の面は金色で四つの目)で、そのように読んでいると儺の隠れた意味は、永劫回帰の一変種としての異形、あるいは人間とぼやぼやした霊がどこかで繋がっていることかもしれないです(たぶん違う。でも『周礼』『周易』『荘子』『楚辞』『易林』などにあるアニミズム的な世界観は楽しいですね、これだから漢文学は魅力的です)

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています