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9-61  小畜之中孚

本文

魃為旱虐、風吹雲卻。欲止不得、反帰其宅。

注釈

艮為火、故曰旱虐。震為神、與艮火連體、故曰魃。『詩』大雅「旱魃為虐」、毛傳「魃、旱神也。」巽為風、兌口為吹、大坎為雲、坎伏、故曰雲卻。卻、退也。艮為止、為宅、震為帰、故曰反帰其宅。(風天小畜から風沢中孚へ)

艮(中孚の互体)は火(迭象)なので旱虐(旱魃)。震(中孚の互体)は神(迭象)で、艮の火と連なって、魃(旱魃の神)。『詩経』大雅・雲漢に「旱魃は虐を為す」とあって、注釈では「魃は旱神のこと」という。

巽は風、兌の口(説卦伝)は吹くことになり、大きい坎(中孚の爻を二つずつまとめると裏卦は坎になる)は雲(出典不明)、坎は裏卦なので、雲は却く。却は退くこと。艮は止まる(説卦伝)、宅(説卦伝から派生?)、震は帰る(出典不明)なので、「その宅に反帰(戻る)」という。

日本語訳

魃神は旱虐を為し、風は吹いて雲は却いていく。(雲は)止めたいが止められず、その家に帰っていく。

解説

風天小畜は、天の上にふわふわと風が吹いていて、その風が温かい天の気を少し蓄える様子(そのため、生暖かい雲はあるけど、どことなくぼんやりとしていて雨は降らない)、風沢中孚は水辺の上に風が流れるように静かにしている様子です。この詩は、おそらく雲が少しだけ出てきて雨が降るかと思ったけど、その雲は帰っていき、ふたたび雨乞いをする風景なのですが、上にあった『詩経』大雅・雲漢はその雨乞いの詩です。どうでもいいけど、雨乞いのことを書くのに夜の描写から入るセンスがいいと思う。

  大雅・雲漢
倬彼雲漢、昭回於天。王曰「於乎、何辜今之人。天降喪乱、饑饉薦臻。靡神不舉、靡愛斯牲。圭璧既卒、寧莫我聴。」
旱既太甚、滌滌山川。旱魃為虐、如惔如焚。我心憚暑、憂心如薫。群公先正、則不我聞。昊天上帝、寧俾我遯。

倬(高い)彼の雲漢(天の川)、昭(きらきらと水を)天に回(繞らせているのに、)王は云う「ああ、どうして今の世の人を刑するのか。天は喪乱を降らせ、饑饉は薦(集まり)臻(至る)。神の中で挙(祀)られないものはなく、牲を愛(惜)しむこともなく、祭りの圭璧(玉器)は既に卒(尽き)、私の言は聴かれない。」

旱は既に太甚(甚だしく)、山川を滌滌(がさがさにする)。魃神は虐を為し、惔(焼く)ごとく焚くごとく、私の心は暑さに悩んで、憂いている心まで薫(焼かれるようで)、群神祖神は、私の言を聞かず。昊天の上帝は、寧(どうして)私を遯(追われて逃げさせたがるのか)。

全部ではないけど、なんとなく雰囲気が伝われば十分です。もっとも、このあと周の王の感じ方を民は讃えていると『詩経』では解しているので、「少しだけ雲が出来かけて(小畜)、まだ雨にならないので静かに過ごして(中孚)」だと思います。

ちなみに、このときの変爻は小畜の三爻だけなので、小畜の爻辞も読んでおきます。

九三:輿説輻、夫妻反目。
輿(車)は輻(車輪の矢)が説(脱けてしまい)、夫妻は目を反(背け合う)。

小畜は少しだけ蓄えることなのですが、上のほうにある風はもっと温かいので、天のほんのり暖かいものだけでは雨になるほど大きい雲が作れない、夫妻(夫は下にある天、妻は上にある風)は雲になるほど近づかずに背き合う、という意味です(かなり意訳してます)。

ちなみに車の車輪が毀れるは、雲を作るほどの大きい流れがないことの比喩です(先秦の比喩って、奇矯で分かりづらいけど、後の人が思いつけないほど独特なものがあって、この独特な表現を少し縁語的に補ったり、まわりの様子を描写して一つの風景にする方法で、より多彩な表現にするという使い方がある。例えば「雨を載せた雲の車は、坂を登りきれずに輪が抜けてしまい、天の温かい風と空のやや冷たい風は出会わずに終わってしまう」みたいにすると、不思議な詩みたいになります笑)

余談

小畜の雲については、『周易』に「密雲不雨、自我西郊(密雲は雨を降らさずに、私の西の郊にある)」とあって、この「密雲不雨」っていう感性がいいと思う。この組み合わせの感覚は、江戸時代の絵師 浦上玉堂(このブログで度々ヘッダー画像に載せていて、この記事でも借りてます)の作品で、「一晴一雨図」「雨後絶涼図」「雲蒸寒潭図」「夏雲欲晴図」などの題の付け方と似ている。

浦上玉堂はどちらかというと気の揺らめきのような詩や絵を多く書いていたのですが(いずれ別記事で大きく取り上げます)、墨の色がほとんど雲や霧、風にすらみえる雰囲気が好みです。ちなみに、この記事のヘッダー画像は「山高水長図(易で云うと水山蹇の険しさ?)」というのですが、浦上玉堂には「山澗読易図」という作品もあって、易を好んでいたかもしれないので、もしかすると山の気が濛々と立ちのぼったり、澎々と流れたりするのを描く感性は、今回みたいな易の描写から感じるようになったのかも、とか思います。占いと芸術はどちらも気の揺らぎや質感を感じることで通じるなら、密雲不雨図とかも書いてそうですし。

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています