霊山のいろいろ

1-15  乾之謙・26-36  大畜之明夷・44-59  姤之渙

本文(乾之謙)

山険難登、澗中多石。車馳轊撃、載重傷軸。擔負差躓、跌踒右足。

注釈

艮為山、為石、坎為澗、坎険、故難登。震為車、坎多眚、故轊撃傷軸。坎為轊、為軸、艮為何、故曰擔負。坎蹇、故差躓、故跌踒。差、同蹉也。震為足、艮伏兌、故曰右足。(乾為天から地山謙へ)

艮は山・石(説卦伝)、坎は澗(説卦伝の溝瀆)、謙の互体坎は険しいなので「登り難い」。震は車(迭象の乗)、坎は多眚(災いが多い、説卦伝より)なので、「轊(車の横)は撃(ぶつかって)軸を傷める」。坎は轊・軸(説卦伝)、艮は何(荷う、閉じ込めるようなので?)なので「擔負」という。坎は蹇(がたがたして足を痛める)なので「差躓(つまづく)」「跌踒(挫く)」。「差」は「蹉(つまづく)」と同じ。謙の互体震は足(説卦伝)、艮の裏卦は兌なので「右足(兌は西、南向きになったとき西は右だから?)」。

本文(大畜之明夷)

山険難登、澗中多石。車馳轊撃、重載傷軸。擔負善躓、跌踒右足。

注釈

詳乾之謙。(山天大畜から地火明夷へ)
乾から謙になるときに詳しく書いています。

本文(姤之渙)

山険難登、澗中多石。車馳轊撃、重載傷軸。擔負善躓、跌踒右足。

注釈

詳乾之謙。(天風姤から風水渙へ)
乾から謙になるときに詳しく書いています。

日本語訳

山は険しく登り難く、澗中には石が多い。車を馳せては轊(軸の横)はぶつかり、荷は重くて軸を傷める。担負(背負っては)差躓(つまづき)、右足を跌踒(挫く)。

解説

とりあえず何をいっているのか分かりづらい詩ですが、山水画の如き風趣があってすごく好みです。個人的に思っている解釈で無理やり読んでいきます。

まず、大きい石のごろごろとしている澗に入るのに、ふつうは歩いて入りそうなのに、わざわざ車で入っていくのが不思議です。さらに、荷がかなり重いのに、車が倒れても背負って運ぶほどらしいので、何か重い任にあるらしいです。この松・柏の深く茂って、荊棘薜蘿に蔽われたような石が幾つも重なっているような山で、大きい荷を載せた車という雰囲気はこの作品を思い出します。

北向獨不朝、瀉千尺銀河、濺玉飛珠、相望源頭來紫蓋;
西巡應有恨、棄九重金闕、投龍続命、空尋洞穴向朱陵。

北に向いて獨り朝せず、千尺の銀河を瀉ぎ、濺玉飛珠、源頭(みなもとを)相い望めば紫蓋より来たる;
西に巡りて応に恨むあり、九重の金闕を棄て、龍を投じて命を続け、空しく洞穴を尋ね朱陵に向かう。

これは中国の霊山の一つ、南嶽衡山にある水簾洞(瀧と洞窟が合わさったようなところ)の対聯で、北に向かっているけれど都に従っているわけではなく、千尺の銀河の如き瀧を瀉いで、その水は濺(そそぐ)玉 飛ぶ珠のようで、その源を望めば紫蓋峰より来る。この水簾洞は道教世界では三十六洞天(霊山の中などにある三十六の大きい洞窟仙境)のうち第三朱陵洞天とも云われていて、唐の玄宗は宮中より人を遣わして、道士とともに金龍の像と祭詞の玉簡を洞内に投げ入れて祀らせたという話が残っていることに基づいて、その使いたちがさらに西に向かったのはどんな恨みがあったのか、宮中の金闕を棄てて、龍を投じたのちも命をつづけ、さらに洞を探して朱陵に向かう(さきに祀ったのは朱陵洞ではないのかもしれない)という作品です。

荷物は金龍玉簡、あるいは供え物などのことで、それを車に載せてきたけど山は思ったより険しく、水の流れる澗の上にある石やそれを覆うように這っている木の根にぶつかって、車の轊は傷つき、歪みによって軸が折れてしまう。それでも荷を背負って苔の蒸した石を踏んで流れを遡っていくと、つまずいたり足を傷めたりする……という解釈なのですが。

これで読んでみると、乾は「乃ち天を統(治め)、雲を行(めぐらし)雨を施し、物を品(分けて)形に流し込み、大いに始終を明らかにする(乃統天。雲行雨施、品物流形、大明始終)」様子、謙は「天道は盈ちるを虧きて謙なるを益す、地道は盈ちるを変じて謙なるに流れ、鬼神は盈ちるを害して謙なるに福し、人道は盈ちるを悪(憎みて)謙なるを好む(天道虧盈而益謙、地道変盈而流謙、鬼神害盈而福謙、人道惡盈而好謙)」とあります。

大畜は「天が山中に在るのが大畜。……その德を蓄える(天在山中、大畜。……以畜其德)」、明夷は「以て大難を蒙る(以蒙大難)」こと、姤は「天の下に風があるのが、姤。后(君は)以て命を施し四方に誥(告げる)(天下有風、姤。后以施命誥四方)」こと、渙は「風が水の上を行く、そのようにして難を吹き散らすのが渙(風行水上、渙)」なので、いずれも宮中で山川を祀る命をおびて山にきたけれど、思ったより険しいものに阻まれている様子です。

違いとしては、乾之謙は「亢(あがりて)謙なるを知らず」、大畜之明夷は「鳳飾りの旌に泥がついているような」、姤之渙は「つなぎ留めたり引き入れられるけど、それまでが難しい」だと思ってます。

占例

浦上玉堂の絵をたびたびヘッダー画像に用いているのですが、その魅力はどんなところにあるのかと占って出たのが、乾之謙です。この話はいずれ別記事に書きます(こういう占い方を易でするのはどうかと思うけど、それなりに当たっている気がする)

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています