本文
躡華顛、観浮雲。風不揺、雨不薄。心安吉、無患咎。
注釈
艮為山、為顛。伏兌為西、故曰華顛。坤為雲、為風。兌為雨。兌伏、故云不薄。坤為心、為患。艮安、故無。(風雷益から山地剥へ)
艮は山、顛(山からの連想)。伏卦(益の互体の裏卦)の兌は西(後天八卦)なので、華山(西岳)の顛。坤は雲・風(迭象)。兌は雨(迭象)。兌は伏卦(裏卦)なので、薄(せま)らずと云う。坤は心・患(どちらも迭象)。艮は安らか(出典不明)なので、無(咎・患はない)。
日本語訳
華山の顛を躡(踏)み、浮き雲を観る。風は揺れず、雨も薄って来ないので、心は安吉(穏やか)にして、患咎もない。
解説
珍しく三字の詩です。益は春の風と雷があわさって、道にある冬の残り葉などを濡らしては植物を育てる様子、剥は最後の陽が山の上に残っているけど、それも近いうちに落ちていく様子です。剥のようなときには「上にある物は、下に厚く施すことで宅(身の置き場)を安らかにする」とあって、下り坂にあるときには無理して争わず、すんなりと引いたほうがいいですが、季節でいうと晩秋の冷たい風の吹く頃を思ってください。
秋の西風はふもとで嫋々と草や木を揺らしているのがみえるけど、高い華山(陝西省にある山で、西の方角を守る)の上では雲もみな去って、雨も降らずにいて、一通りのことを終えて高い山に隠れるような姿です(ちなみに、これが春の初めの復のときは、東の泰山と絡めて書かれていたりと、『易林』は詩それぞれに関わりがあるようにも見える)。
余談
華山は隠遁する山、泰山は皇帝が天地を祀る山という書き方をされているのは、なんとなく当時の山のイメージを残していて、今からみても意外と当たっています。気になる方はネット情報ではありますが「華山十大未解之謎」と調べてみてください。
ただ、中国語のサイトばかりなので十大未解の謎のうち、一部を載せておきます。主にこちらを参考にしました(たぶん複数のサイトに載っているので、本当だと思います……)
https://baike.baidu.hk/item/%E8%8F%AF%E5%B1%B1/198
洞里瓮:華山のある峰の上には、岩でできた小さい洞窟があって、そこにぴったりと嵌まり込むように瓮(甕)が入っている。そして、その瓮の中にはさらに洞窟があって、この瓮はどのように焼かれたのか分からない。
謎の字:華山の蒼龍嶺の上には「雲海」と書いた碑があって、その隣には○に・を入れたものを田の形に四つ並べたものが彫ってあり、これが何て読むか分からない。ある人は昌・明をどちらから読んでも読めるように書いたものと云ったり、ある人は陝西方言で「jiao(太陽の光が刺すように明るい)」と云っている。
神灯:華山にはときどき峰や崖のところを、三々五々の光が見えることがあり、これは神灯と呼ばれていて、見ると長生きできる。
黒龍潭:華山の南峰には黒龍潭という1mほどの小さい池(ほとんど水たまり)があり、その水は黒く濁っていて黒龍潭と呼ばれる。ただ、その水はあるときは墨を注いだように黒く、あるときは底が見えるほど澄んでいて、一説には龍がいるときは黒く、いないときは澄んでいるという。
仰天池:華山の南峰には仰天池という池もあり、これも1mほどの小さい池です。この池についてはいずれ別記事で書きます。
華山は「削られて四角くそびえる花のような山(超巨大版の妙義山みたいな感じ)」で、祭りをするときも麓の廟で行われたり、山の上には道観だけがあったりと、人を寄せ付けず飄忽とした情趣のある話が多いです(ちなみに泰山は古くより帝王の祭りが山上で行われたり、生きることを司る神々が祀られたりと生にかかわるイメージがあります)。