霊山のいろいろ

57-20  巽之観・55-50  豊之鼎

本文(巽之観)

讒言亂國、覆是為非。伯奇流離、共子憂哀。

注釈

詳豊之鼎。(巽為風から風地観へ)
詳豊から鼎になるときに詳しく書いてます。

本文(豊之鼎)

讒言亂國、覆是為非。伯奇乖離、恭子憂哀。

注釈

詳巽之観。(雷火豊から火風鼎へ)
巽から観になるときに詳しく書いてます。

日本語訳

讒言は国を乱して、是を覆して非にする。伯奇は流離して、恭子は憂哀する。

解説

これも注釈が循環しているような例です。とりあえず、独自解釈で読んでいきます。まず、伯奇は周代の人の名で、おそらく全体の出典になった話はこれです。ちなみに『琴操』はさまざまな琴曲の由来をまとめていて、その中に伯奇が作った曲も含まれています。

履霜操者、尹吉甫之子伯奇所作也。吉甫、周上卿也、有子伯奇。伯奇母死、吉甫更娶後妻、生子曰伯邦。乃譖伯奇於吉甫曰「伯奇見妾有美色、然有欲心。」吉甫曰「伯奇為人慈仁、豈有此也?」妻曰「試置妾空房中、君登楼而察之。」後妻知伯奇仁孝、乃取毒蜂綴衣領、伯奇前持之。於是吉甫大怒、放伯奇於野。伯奇編水荷而衣之、采花而食之、清朝履霜、自傷無罪見逐、乃援琴而鼓之曰「履朝霜兮採晨寒、考不明其心兮聴讒言、孤恩別離兮摧肺肝、何辜皇天兮遭斯愆。痛歿不同兮恩有偏、誰説顧兮知我冤。」(蔡邕『琴操』巻上・履霜操より)

「履霜操」は、尹吉甫の子の伯奇が作った曲。吉甫は、周の高位の者で、伯奇という子がいた。伯奇の母が亡くなって、吉甫はさらに後妻を娶り、伯邦という子が生まれた。(後妻は継子の)伯奇を謗って「伯奇は私のことを見て、欲心を起こしているのです」と吉甫にいった。吉甫は「伯奇の性格は穏やかで優しいのに、そんなことはしないだろう」と云うので、妻は「試しに私を一人で部屋の中に置いて、楼の上からどうなるか見てください」といって、後妻も伯奇がそのような者ではないと知っていたので、毒蜂を衣の襟の間に入れて、伯奇にこれを取らせるようにした。吉甫は遠くからそれをみて大いに怒り、伯奇を野に追い出した。伯奇は水荷を編んで衣にして、花を取って食べ、寒い朝に霜を履んでは、罪がないのに逐われたことを悲しんで、琴をとって歌う「朝の霜を履んでは晨(あさ)の寒さに花葉を採って、その心を知らないで騙されている人よ、昔の恩に背いて別離しては肺肝(心)を摧(砕き)、何の間違いによって皇天はこの愆(災い)に遭わせるのか。歿(死)するのを痛むこと同じからずして恩は偏する有りて、誰か説顧みて私の冤なるを説くか。」

これをみると「讒言が是を覆して非にする。伯奇は流離して、恭子は憂哀する(共は恭のことで、流離と乖離は大体同じ意味です)」はほとんど含まれている気がします。そうなると、なぜ讒言が入り込むかが詩の意味に関わりそうです。

巽は従うことなので、吉甫も伯奇も従いやすい、卑順で流されやすい様子です。観は「盥(手を濯いでも)不薦(供え物をする前)、有孚(信じられて)顒若(厳然たり)」のように、祭儀の始めに手を洗うところをみれば、供え物をする前に観ている人は厳粛な気持ちになって敬うことで、そのようにして「天の神道を観せる」様子です。

豊は「雷電の皆な至る、豊。君子は以て折獄して刑を致す」というように、火と雷で大きく広げていき、刑獄についても誤りなくできる時です。ただ、「日は中(高く上れば)則ち昃(傾き)、月は盈ちれば則ち食(削られる)。天地の盈虚も、時とともに消息する。まして人に於いては……」のように、いずれ翳りが入る前のときです。

鼎は「木の上に火があって何かを煮ている。君子は以て位を正し命を凝(固める)」というように、安定期に入っていく様子です。これをみていると思い出すのは、漢の武帝・唐の玄宗・清の乾隆帝など、明君の治世の前半期って、なんとなく豊っぽい気がしませんか。中国の王朝って、どれも興ってから割と近い時期に全盛期があって、その後にゆっくり下り坂になっていつの間にかぼろぼろになっている印象があって、ただ下り坂の期間もそれなりに粘るときもあって、安定しているときもあり……のように、大きい発展もないけどそれなりに上手くいっているときもあります。

そうすると、漢の武帝・唐の玄宗・宋の真宗・清の乾隆帝など、王朝の全盛期をつくった明君のときは泰山で封禅を行なったりと雷火の豊々としてその儀を飾っているような雰囲気はあるけど、その治世の末期にはやや暗い翳りが見え始めている(王朝が滅びるほどではない)こと、これが今回は豊であらわされるので騒がしくて、威が行き過ぎるのを気づかせるようなことが起るだと思います。

というわけで、話をまとめると巽から観になるときは、穏やかに従っているだけで分かってくれると思っていると伝わらずに、まわりに従い過ぎて災いを招くこと、豊から鼎は明君の治世の末期のように威が行き過ぎているときはその弊が出て、威を利用する人が出てくるけど、その後は安定期(というような、下り坂というような)に入っていくことかもしれないです(讒言に遇って、逐われる皇子ともみえるけど……)。

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ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています