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真勢中州の生卦法

 この記事では江戸時代の周易の名人、真勢中州先生が独自に生み出した技法として知られている生卦法について解説してみます。
(ネットであまり生卦法について全容を書いている記事は見当たらなくて、真勢中州についての本もあまり出回らないようなので、本で読んだ程度の理解ではあっても、一応どういう理論だったか書いておくみたいな感じです)

 参考文献としてはこんな感じです。技法の説明はこれら四書を折衷した感じでしていて、占例はそれぞれ出典を書いていきます(松井羅州・谷川龍山は真勢中州の門弟です)。

加藤大岳『真勢易秘訣』
谷川龍山『易学階梯附言』
松井羅州『復古易精義入神伝』
三浦國雄『易経』

 まず、生卦法はこんな感じに分かれています。

卦に操作を加えないもの
 賓卦・伏卦・互卦・全卦・包卦

卦に操作を加えるもの
 状態が変わる: 交易生卦
 出方を変える系:運移生卦
         顛倒生卦
 ものが動く:  運移生卦
         易位生卦
         来往生卦
 その他:    変為生卦

 賓卦は、ある卦を上下逆にみて、相手はこの状態をどう思っているかみる方法で、山沢損(下を削って上を増やす)と風雷益(上を削って下を増やす)、雷沢帰妹(速く動きたい)と風山漸(ゆっくり進む)などがあります。

 伏卦は、ある卦の陰陽を逆にしたもので、ある状態の裏に潜んでいるものについてみる方法です。例としては、山火賁(表面を飾る)と沢水困(水漏れして困じている)、水火既済(すべて完成している)と火水未済(まだ完成していない)などがあります。

 互卦は、二~四爻の下互と三~五爻の上互を一つの卦をしている通常の理論の他に、二~五爻や初~五爻に大成卦をみるような方法(火風鼎の初~五に山雷頤をみるなど)もあります。

 全卦は、たとえば地山謙を大きい震、風地観を大きい艮とみるような感じです。また、きれいに重ならなくても、沢風大過を大きい坎、山沢損を大きい離のように見ることもあります(坎・離のみに使っていて、似体・似象といいます)。

 包卦は、乾・坎は坤に(乾を包む坤:咸・恒、坎を包む坤:家人・睽)、坤・離は乾に包まれている(坤を包む乾:益・損、離を包む乾:解・蹇)という様子です。互体と似ているかもしれないけど、真勢流では包む・隠す・蔵するなどの意味で解釈しています。
(ちなみに、包む側が乾・坤以外だったり、包まれる側が上の四つ以外だと、たとえば坤の中に震が入ると陰爻が混ざってしまい、離の中に乾だと陽爻が混ざってしまう(どこまでが一つの卦か分からない)ので、包卦ではないらしいです)

 もっとも、この辺りは真勢流ではない易でも使われるのですが、これから書いていく理論は出てきた卦に操作を加えてその前後の様子やまだ起こっていない出来事などを読んでいくように使われているのが独特です。

交易生卦(交代生卦ともいう、泰・否からの派生)

 交易・交代は入れかわることで、三陽三陰の卦はすべて地天泰・天地否からひとつの陰爻・ひとつの陽爻が入れかわって派生したという理論です。

 たとえば、地天泰(天地の気が混ざりあって、上手くいっている様子)から

山風蠱:山の下に風が吹いていて、金風嫋嫋たる中に物がぞよぞよとして蠱惑壊乱していく様子

水沢節:天地がほどよく混じり合っているときには、雨もほどよいので沢の上に水がちょうどよく収まっている様子

水火既済:天地の気が混じり合って、物事がひと通り完成している様子

などが派生していたり、天地否(天地の気が背き合って、沈滞している様子)から

火雷噬嗑:噬嗑は噛み合すことなので、淀んでいるものを噛砕いて動かしていく様子

風雷益:天地否のときは万物が否塞していたが、陰陽の気が少し動くと雷と風が生まれて重々しく澱んでいた地上には雷気が氳々として起こり、冷たく澄んでいた空には柔らかい風が起る様子

沢山咸:天地の交わらないときから、山には沢の水気が齎されて、じっとり低く溜まっていた沢には巒気が入ってきて凹凸起伏のできて流れていくような様子

とされています。

 ちなみに、それぞれ『周易』本文の蠱「剛上りて柔下る」、節「剛柔分れて、剛は中(五爻)を得る」、噬嗑「剛柔分れて……柔は中(五爻)を得て上に行った」などがその様子を描いているらしいです。一覧にするとこんな感じ。

泰から派生:蠱・賁・恒・損・井・帰妹・節・豊・既済
否から派生:噬嗑・益・困・随・漸・旅・咸・渙・未済

 この理論を使った占例としては、『易学階梯附言』から引用してみます。

 ある農家が衰運の中にあったので、占ってみると蠱之渙を得た。中州先生の門人だった小松翁が曰く

蠱はもともと泰(上手くいっている)から来たもので、泰の上爻の陰が初爻に来て、そこにあった陽爻が上にいったせいで蠱(毀れる)になったので、もともと下に居た者が上に来てしまい、上に居た者が下に落とされたせいで蠱になったらしい。

 さらに山風蠱から風水渙になっているので、渙は吹き散らすことだとすると、水を散すようにお金も散っていること。渙は天地否から派生したものなので、このままではいずれ否になってしまう。それゆえ新たに入ってきた者を出して、もと居た者を呼び戻したほうがいい」

 これは、泰と蠱・否と渙がそれぞれ交易生卦でつながっていて、蠱と渙は本卦と之卦になっていることから、泰寄りの状態から否になっていく様子が卦にあらわされていると読んでいます。

顛倒生卦(出方を変える)

 顛倒生卦は、ある卦を上下逆にしてみることです。これだけみると、先に述べた賓卦を同じようにみえますが、賓卦は「相手からみるとどう見えるか」、顛倒生卦は「今と違うことをしてみるとどうなるか」を読むために使います。

 さらに易では、内卦をこちら側、外卦をあちら側としてみるので、

全体を顛倒する:全体の動きが今を逆になったときにどうなるのかを読む
内卦を顛倒する:こちら側の動きが今と逆になったときにどうなるのかを読む(内顛生卦)
外卦を顛倒する:あちら側の動きが今と逆になったときにどうなるのかを読む(外顛生卦)
内卦・外卦をそれぞれ顛倒する:こちら側もあちら側も動きが今と逆になったときにどうなるのかを読む(内外顛生卦)

のように多彩な使い方ができます。内顛生卦・外顛生卦は後に書くので、ここでは全体を顛倒させている例を『易学階梯附言』よりみていきます。

 あるとき、物価の高低を占って、地沢臨が出た。解して曰く

「地沢臨は、地の下に水辺が広がっている様子。そもそも地は低いものなのに、その下にさらに水辺が低く凹んでいるので、今はきっと物価が低いことになる。あることが極まると、別のほうに転じていくので、この地沢臨全体を顛倒してみると、風地観になって、観は二つの陽爻が上にまとまっていて高いところをあらわす。なので、これから次第に高くなっていくものと思われる」

 これは、物価はこちら側とあちら側がないので、全体を上下逆にして今とは違うことになったときにどうなるのかを読んでいます(観は辞の面でも、高いところにあるものを人々に見せるという意味がある)。

 ちなみに、損・益は顛倒生卦の関係になっていて、損六五・益六二はどちらも「十朋之亀」、夬・姤も同じく顛倒生卦の関係で、夬九四・姤九三はどちらも「臀无膚、其行次且」があったりと、辞にもそういう感覚が含まれています。

反覆生卦(出方を変える)

 反覆生卦とは、ある卦の陰陽を逆にしてみることです。これだと先の伏卦(陰陽を逆にして、裏に含まれている状況を読む)と同じにみえそうですが、反覆生卦はやはりこちら側・あちら側が出方を変えたときにどうなるのかを読むように使います。

 これだけだと、「顛倒生卦と同じでは?」と思うかもですが、乾・坤・坎・離は上下を逆にしても同じ卦になってしまうので、陰陽を逆にして出方を変えたときの様子を読んでいきます(ちなみに震・巽・艮・兌は、顛倒生卦も反覆生卦も使えます)。これも内反生卦・外反生卦・内外反生卦の三つがあります。

 使い方の例としては、加藤大岳先生が『真勢易秘訣』210頁であげているように

 あることを筮して水雷屯を得た。このときはこちらは震で進みたいを思っていても、行く先には坎(険難)があって屯難盤桓している様子です。なので、震から艮(内顛生卦)になって止まっている、あるいは震から巽(内反生卦)になって敢えてあやふやなままにするというのができるけど、内顛生卦だと水山蹇なのでお互いに行き詰まってしまう(坎坷と山が向き合っているだけ)ので、内反生卦の水風井で今まで通りのまま様子見でもいいかもしれない。

 もしくは、こちらが勢いよく進むところへ、あちらは落とし穴(坎)を作って構えていると読んだときは、あちらが表立って仕掛けてきたとき、外反生卦によって坎(罠)は離(戈兵)になって、全体は火雷噬嗑になるので多少どつき合いになっても、離(表面を飾る)と震(激しく動く)だったら押し切れる、あるいは外卦・内卦ともに反覆生卦を用いて水雷屯を火風鼎にすれば物事を新しく煮て作る鼎のように、ここは穏やかに別の方向で話し合ってみる……

のように様々なやり方を考えるように使っています(顛倒生卦と反覆生卦をあわせて用いている)。

運移生卦(小さいものが出入りする)

 運移生卦は、内卦と外卦の間である一つの爻が動く(運移する)生卦法です。このときも内卦をこちら側、外卦をあちら側としてみています。

 もっともこれだけだと、交易生卦(地天泰・天地否の状態から、陰爻・陽爻がそれぞれ一つずつ動く)と同じだと思われそうですが、交易生卦は天地の気が互いに巡る様子、運移生卦はある状態をあらわす爻の中で一つの爻が外(外卦)に出ていったり、中(内卦)に入ってきたりする様子です。

 あと、陰爻は陽爻を越えられるけど、同じ陰爻は越えられない・陽爻は陰爻を越えられるけど、同じ陽爻は越えられないというふうになってます(水山蹇の九三は、四爻に出ていくと読んでも、九五を越えて上爻まで行くと読むことはないらしいです。おそらく途中で九五が上爻に来たのか、九三が上爻まで来たのか分からなくなるため)。

 これは三浦先生の『易経』からの例なのですが

 ある人が京都で宮仕えをしていたが、突然失踪して六日経っても戻らず、卦を立ててみると地沢臨の震為雷に之くが出た。中州先生曰く

「これは運移生卦で読んでみると、臨の九二が震の九四まで出ていったことになる。ただ、家を出た翌日はまだ三爻(内卦、すなわち京都)にとどまっていて、三日目に外卦(外)に出ていったらしい。

 行き先は、震(東)なので江戸のほうだろうが、震の互卦に水山蹇があるから水と山の険しさに苦しんでいて、水の多いところといえば琵琶湖あたり。震は勢い任せという感じもあるから、足止めを食っていると次第に落ち着いてきて帰って来るだろう」

というように、ここでは運移生卦とあわせて互卦も使っています。これも一つの爻(失踪者)が外卦に出ていった様子を運移生卦にしていて、全体の様子が変わることを占っている交易生卦とは異なります。

易位生卦(あちらとこちら)

 内卦をこちら(あるいは下卦ともいうので下側)、外卦をあちら(あるいは上卦ともいうので上側)とみて、それが入れかわるほど近づく様子になったときにどうなるのかを読む生卦法です(内卦が外卦のほうに寄っていく・外卦が内卦のほうに寄ってくる・その両方が同時に起こるなど、そのときの様子で色々な違いが出てきます)

 たとえば、火地晋は、離(日)が地上にあって明々としているとき、その易位生卦法で出てくる地火明夷は日の沈んだときで暗々たる世というようになってます。あるいは火沢睽と沢火革だと、沢火革の沢(水)は流れ落ちて来て、火は上に向かっていくので互いに絡み合って革(変わる)ことがあるけれど、火沢睽の火は上に向かって沢は下にとどまっていて、互いに交わらずに背き合う様子、沢水困と水沢節では、困は水が沢の下に漏れているor沢の底に澱んでいる、節はほどよく水が収まっているという感じになります。

 これの占例としては、三浦先生の本で谷川龍山のものが載っています。

 ある衰運の商家に養子縁組の話が持ち込まれた。養子は持参金五十両とともに入ることになっていたが、なかなか話がすすまないので龍山の占って曰く

「出たのは水天需の変爻なし。需は待つなので、待っていれば話はまとまる。もっとも、互卦に火沢睽が潜んでいるので、なかなか背き合うものが含まれていて話がまとまらない面はある。こちらから相手にぐいぐい迫り過ぎてしまうと、内卦が外卦のほうに近づきすぎて、易位生卦で天水訟(訟:もめる)になってしまう。なのでこちらは乾の積極性ではなく、坤の受動性で居れば、内反生卦で水地比(比:親しむ)になる。」

 この商家では、占いの通りしばらく何もしないで様子をみていたところ、養子縁組の話はまとまった。

 これも互卦・易位生卦・反覆生卦を複合して使っている例で、かなり色々な様子を想像するように生卦法が出てきています。

来往生卦(来徴生卦ともいう、外から入ってくる)

 この来往生卦は、大成卦の中に「外から陽爻あるいは陰爻が入って来ること」です。たとえば、水地比(九五が、残り五つの陰爻を治める様子)から水雷屯になると、初爻に別の陽爻が入ってきて、今までは九五にまとめられていたけど、初九もまわりの陰爻をまとめつつあって、屯難が生まれそうな様子です。

 あるいは、天地否(君と臣の分かれて否塞している様子。下にいる坤は穏やかなので、君とは争わない)の二爻に陽が入って来ると、天水訟(地:臣の中にもまとめる者が出てきて、訟いことになる)みたいな感じです。

(ちなみに、加藤大岳先生曰く“易の用語で、内卦に入るのを「来る」、外卦に入るのを「往く」というので来往生卦といわれているけど、どちらかというと「来たりて兆す」が近いので来徴生卦というのがよい”らしいです)

変為生卦(ある爻の陰陽が変わる)

 これは「大成卦の中の或る爻が、陰陽を変えること」です。
(来往生卦は外から何かが入ってきたこと、変為生卦は中で別のものに変わったことみたいな違いがあり、爻の動きだけみると同じだけど、占う内容によって分かれるみたいな感じです)

 これは占例として『易学階梯附言』より病筮をみていきます。

 たとえば、小さい子供の発熱(痘瘡とされる)を筮して、沢山咸が水山蹇になったときは、咸の四爻が変じていて、蹇の三~五爻で離になっているので(この離は互体とも包卦とも読める)、これが熱だとすれば、石膏(解熱剤)を飲ませて熱を下げると、また咸(沢気と山気が滑らかに交わる)になるので治ると読む。

 また、流行りの熱病になった人のことを筮して地火明夷を得たときは、同じく石膏(解熱剤)で内卦の離の熱を除けば、地天泰となって元の状態にもどる。

のように、一部の爻を変えることで違う状態にしていくような感じで使われています。

 もっとも、真勢流というと中筮法(あるいは本筮法)で変爻がいくつもあるという印象が強いですが、松井羅州『復古易精義入神伝』をみると、ほとんどは変爻が一つだったり、真勢流病筮に特有の爻卦法がほとんど出てこない等、どことなく略筮っぽい感じがします……。でも、生卦法は使っているので、略筮法でも生卦法を取り込むことはできるらしいです。

 ある人が古着屋で羽織を買ったのだが、その中にお金が二分(一分は15000円なので、三万円くらい)入っていた。このお金は羽織についていたものなので、古着屋に戻さなくてもいいかも知れないが、店のお金だった場合困っているかもしれず、中州先生に占ってもらうと、

「水雷屯から地雷復。屯は艱難の卦なので、店はきっと困っている。復は戻るなので、お金は戻したほうがいい。また、古着屋からみてみる賓卦は山地剥(地雷復を上下逆にしたもの)なので、お金が取られている様子になる。

 また、地雷復のときは陽爻がこちら側(内卦)のみなので、お金がこちらに来ている様子にもみえて、このお金を相手(外卦)に返せば水地比になって、こちら側には羽織(坤:説卦伝で布)だけが残って、店との関係も親しむことになるので返したほうがよい。」

(羅州按ずるに、この占例では地雷復から水地比のところで運移生卦を使っている。これは得た卦には含まれていないが、実際の様子とあわせて解釈に入れている)

 ある人が家を質にいれてお金を借りていた。この借主は既に借財が多くかさんでおり、お金を返してもらおうとすると、官吏に訴えてでも返納を遅れさせてほしいといって、質にいれていた家を買い取らせてもらおうとすると、家をとても高く売ろうとするのでどうするべきかを占って曰く

「水火既済から水天需になる。この水天需は、もともと交易生卦で地天泰より来たもの。こちらは乾(五行の金)で、あちら側(外卦)に一陽爻を貸し出すと水火既済になる。こちら側には離(文)が残っているので証文があることになるのだが、水天需になると外卦は坎難のときで、こちらはまだ乾で五行の金はあふれている。もう少し待っていてもいいのかもしれない」

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占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています