Uncategorized

2-24  坤之復

本文

衆鬼所逐、反作光怪。九身無頭、魂驚魄去、不可以居。

注釈

坤為鬼、為衆。震為逐、為反、為玄黄、故曰光怪。坤為身、震納庚金、数九、故曰九身。乾為頭、乾伏、故曰無頭。伏乾為魂、坤為魄、震為驚、艮為居、艮覆故不可居。(坤為地から地雷復へ)

坤は鬼(陰気から連想?)、衆(乾の君と坤の民?)。震は逐う・反して(出典不明)、天地の色(説卦伝)なので、光怪(ぎらぎらとした耀き)。

坤は身(陰は魄?)。震は納甲で庚、庚は『礼記』月令の成数で九、なので「九つの身」。乾は頭(説卦伝)、乾は坤・復の裏卦なので、頭がない。裏卦の乾は魂・坤は魄(陰陽)、震は驚く(動く)、艮(震の上下逆)は居(家などから連想)で、艮はひっくり返っているので「居られない」になる。

日本語訳

多くの鬼が逐われる中、却って光怪(ぎらぎら耀くのがいる。)九つの身で頭は無く、魂は驚き魄は去(飛んでいき)、怖くて居られない。

解説

坤から復という分かりやすい流れのはずなのに、ものすごく解釈に悩む詩です。注釈は個人的には全く納得できないので、完全に独自解釈でいきます(かなり面倒な解説をします)

まず、坤のように陰の極まった姿が、復(冬至に少しだけ春の兆しが芽生える)になるのに詩は全然そういう感じはしないです。とりあえず、坤の初爻の爻辞を読んでみます。

初六:履霜、堅冰至。
霜を履んでいると、堅い冰が来る。

『周易』では、変爻は一つの卦を六段階に分けたときを表すように解釈される(小象もそのような書き方をされている)ので、之卦が何になるかは恐らく想定してないと思われます(もし想定していれば、変爻が多くあるときも含めて作られたかも?)。

一方の『易林』では、六十四卦がそれぞれどの六十四卦になるかを書いているので、それぞれの詩は本卦と之卦の関係を元にしているらしいです。泰之否小蓄之晋などはそれが感じられる例で、尚秉和の注釈でも、泰之同人泰之師に通じるものがある、夬之晋夬之需に通じるものがある等、裏卦になると意味も逆になることを書いてます(これは当たっていると思う)。

そうなると、変爻の扱いは『周易』と『易林』ではかなり異なるはずなのに、坤之復という分かりやすい流れに敢えてこんな詩が使われるのは不思議ですし、『周易』と『易林』がその点で一致するのも不思議です。

いままで、このブログでは変爻が一つだけのときは『周易』の爻辞も解釈に入れるような感じで読んでいましたが(蠱之蒙夬之需など)、意外と『周易』の爻辞も取り入れて解釈した方が通りがいい印象はあります。そして、今回の坤から復になるときも同じように読めるとすれば、『周易』と『易林』の詩がなんとなく雰囲気的に似ているのも、それに関係がありそうです。

坤は深い冬、復は一陽が復するとすれば、本来はもっと温かくなりそうなのに却って霜から冰になるのは、二十四節気で「冬至―小寒―大寒―…」となることに通じそうで、あまり注釈にこういうのを使うのもどうかと思うけど、江戸時代の松平頼救(よりすけ)という大名が書いた『こよみ便覧』という本に

小寒:冬至より一陽起るが故に陰気に逆らう故益々冷る也。

とあることを思わせます。ちなみに、十二消長卦では坤が小雪・大雪、復が冬至・小寒です。

(気にしないでいいけど『周易正義』で、王弼注が「冬至を陰気の始まり」みたいに解釈しているのは、『礼記』月令・仲冬に「奄官(宦官)の正長に命じて、必ず重閉させる」、仲夏に「門閭は閉ざすこと毋(無)かれ」とあるのに合わないので、王弼の深すぎる読みです……)

易の理論上は坤為地(陰だけの旧暦十一月)を過ぎると温かくなるはずなのに、実際の季節は却って寒くなる(ちょうど今の時期ですね)のをみて、『周易』の爻辞と易の理論が矛盾しているはずなのに、その矛盾がむしろ深い解釈になっている例でもあり、そういうときに焦贛がどのように繋げていたかを感じられる例でもあって、こんな長いわりに占いに関係ない解説です……。

焦贛の自然をみる眼の豊かさや深さ、鋭さや矛盾しているものまで『周易』に重ねて解釈していた感性が窺えて、それを鬼に喩えるのも民間伝承っぽくて好きだったりします。鬼の描写がまた印象的すぎて、冬枯れの野を逃げていく鬼の中に、一匹だけふりかえって大きく跳ねて、こちらに跳んできながら身体が九つに割れて、ぎらぎら怪しい光を放つ姿とか、魅力的すぎる。占いとしては、鬼側か人側かを何となく感じて解釈するといいかもです。

あと、光怪は今だと「光怪陸離」という熟語で使われることが多くて、陸離は『楚辞』で神や霊が玉のような光を帯びている様子、光怪はぎらぎらりらりらと怪しい光を纏っている様子です。

余談

ぎらぎらりらりらしている作品といえば、これです。

  天魔墜落
トドロキ墜チタル音スナリ。
眼(マナコ)ミヒラキ、聴キ入レヨ。

大千世界ノ春ノ暮、
光リカガヤクナニモノカ、
墜チテトドロク音コソスナレ。(北原白秋『白金之独楽』より)

この色が光怪陸離の色なのですが、この怪しさは『易林』のあの作品にも通じるものがあります。ここからは自作の詩(本家に比べてギトさが足りない、もっとギトギトが欲しい)

  天魔墜落
春雷ヲ 佩ビテ踊レル
 雷ノ姿ハ遠ク 過ギニケリ

愛ト怒リノ 春雷ハ、
 春ノ虚(ソラ)ヨリ 落チニケリ。

  天魔墜落 弐
虚(ソラ)ヨリ墜落(オ)ツル 天魔ノ眼
 春ノ野ニ 豊カニ過ギル。

麗ラカニシテ 厳カナレヤ

  鳥之巢
丹沢山ノ 黒イ鳥。

身ハ九ツニ
ヤドリ木ヲ ヒキ挘(モギ)リツツ
巣ヲ作ル。
山々ニ居テ 王トナル。

  光怪
春ノ陽ノ
 此ノ倉垣ニ 枯草ノ 花満テリケリ

  光怪陸離
七層ノ楼、
昼ノ光ニ 燃エニケリ。
七色ノ甍 飛ブ如ク
空ニ聳エリ。

金楼ノ上ニ 金ノ鳥
銀楼ノ上ニ 銀ノ鳥
黒イ楼ニハ 黒イ鳥イテ
春ノ野ニ 麗ラカナレヤ、厳カナレヤ。

ギラギラノ リラリラノ歌ヲ
光ハ歌ヘリ
日ハ耀(カガ)ヤカニ 音モナシ。

ABOUT ME
ぬぃ
占い・文学・ファッション・美術館などが好きです。 中国文学を大学院で学んだり、独特なスタイルのコーデを楽しんだり、詩を味わったり、文章書いたり……みたいな感じです。 ちなみに、太陽牡牛座、月山羊座、Asc天秤座(金星牡牛座)です。 西洋占星術のブログも書いています